波尾の選択 傑物たちの至言に触れて

名言を超えた至言。生を突き詰める傑物達。至言に触れて触発された想いを綴ります

優しい曲-1 「愛は面影の中に」ロバータ・フラック

「愛は面影の中に」ロバータ・フラック/[The First Time Ever I Saw Your Face]Roberta Flack

 


First Take

First Take

  • Roberta Flack
  • Atlantic / Wea
  • CD:
 

 

 一番はじめに書く曲がカバー・ソングになってしまった。
基本的にこの特集は「原曲主義」なのだけれども、この曲ばかりはロバータ・フラック(Roberta Flack)の歌唱を紹介しないわけにはいかない。


1957年ユアン・マッコール(Ewan MacColl)というフォーク・シンガーがペギー・シーガー(Peggy Seeger)という歌手に作った曲だった。
後にペギー・シーガー(Peggy Seeger)ユアン・マッコール(Ewan MacColl)は結婚したという。今でも聞けるこのオリジナル・バージョンはユアン・マッコール(Ewan MacColl)&ペギー・シーガー(Peggy Seeger)名義でリリースされたものだ。

あるサイトで調べただけで200以上のカバーバージョンがある。
この事実だけでもこの曲の魅力が解ろうというもの。
 この曲をロバータ・フラック(Roberta Flack)の歌唱で紹介する理由は、
1972年4月15日付~5月20日ビルボード6週間連続全米チャート1位、ミリオン・セラーになりアルバム1位獲得、1972年年間チャート1位
それだけでなくグラミー賞の1972年度レコード・オブ・ジ・イヤーと、ソング・オブ・ジ・イヤーを獲得するという快挙によりこの曲が一気に有名に。
●オリジナルが2分40秒ほどの曲がロバータ・フラック(Roberta Flack)バージョンでは4分20秒
● 一見、ラブ・バラードとして歌っているかのようでゴスペル、ブルーズ、ジャズが混在し、単純なラブ・バラードの域を完全に超えてしまっている。
1969年ロバータ・フラック(Roberta Flack)の最初のアルバム『First Take』に収録されながらもアルバム自体のセールスもパッとしなかったところ、
今やアメリカ映画監督の大御所にして当時マカロニ・ウェスタンと蔑称の様に呼ばれていた西部劇スターのクリント・イーストウッド
(Clint Eastwood)が1971年の第一回監督主演作品『恐怖のメロディー(Play Misty For Me)』で使用したことで「あの曲が欲しい」と殺到した為、急遽アルバムからシングルカットされた。ジャズ・コレクターとしても知られるクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)の慧眼があればこそ。とはいえ映画で使用する際に売れてもいないロバータ・フラック(Roberta Flack)に許諾を取ったという。

 


The First Time Ever I Saw Your Face

 

 ウッド・ベースとアコースティク・ギターがピアノと合わさり、ゆったりと、一音一音を壊れもののを扱うように大切に、身体の奥底から発生される声は息が長く、深い。
ロングトーンの声が聴く者を波間に抱かれ浮遊するが如くの心地よさで身体ごと持っていかれる。
 チェロやバイオリンが絡む中盤はフォーク・ソングで書かれたオリジナルには無い発想だっただろう。
『あなたを一目見た時』という原題そのままの素朴な心が大きな比喩で歌われる。地球の最深部から宇宙の果てまでの広さを歌うかのようなスケールだ。

 

 

200曲以上のカバーの中では長い原題を『First Time』と略してリリースされているものも多い。
1965年ピーター・ポール&マリー(Peter,Paul & Mary)のバージョンは3分40秒のど・フォーク調。
1966年、期待したマリアンヌ・フェイスフル(Marianne Faithfull)のバージョンは4分弱をギター伴奏で唄う。如何せんロバータ・フラック(Roberta Flack)のバージョンを知った後では何とも物足らない。
1972年、ロバータ・フラック(Roberta Flack)がシングルを切った同年にはエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)、アンディ・ウィリアムス(Andy Williams)といった男性大御所もリリース。
1999年、有名どころではセリーヌ・ディオン(CELINE DION)が歌うバージョンもほぼロバータ・フラック(Roberta Flack)の歌唱と同じくらいの長さでゆっくりと歌われているが、基本がラブ・バラード調であり後半の転調や意味ありげなアレンジがセリーヌ・ディオン(CELINE DION)の歌唱の邪魔をしている。
you tubeで見つけたシネイド・オコナー&クリスティ・ムーア(Sinead O'Connor &Christy Moore)のバージョンは2分36秒と短いが、歌うテンポはロバータ・フラックよりも遅いくらいで、時間が短いのは途中までしか歌っていないからで、アコースティク・ギターのつま弾きを後ろに囁くような声で丁寧に歌う名唱。


Sinead O'Connor & Christy Moore -First Time Ever I Saw Your Face (RTE Uncovered)

2018年、最も新しいカバーの一つキャンディス・スプリングス(Kandace Springsによるものは5分40秒と長く、基本的にロバータ・フラック(Roberta Flack)の路線を継承しようとしているにしてはコブシを回したりして長ければいいというものではないという残念な見本。

何はともあれ、シンプルなフォーク・ソングを奥深くカバーしたロバータ・フラック(Roberta Flack)のバージョンがオリジナルを超えてスタンダード化しているもの凄い曲です。

ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ロバータ・フラック

ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ロバータ・フラック

  • アーティスト: ロバータ・フラック
  • WARNER MUSIC JAPAN(WP)
 

 

 

イン・コンサート [DVD]

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  • ロバータ・フラック
  • 2005/04/29発売
  • DVD
 

 

ロバータ・フラック(Roberta Flack)
1937/2/10- (現在82歳)
ピアニスト、ヴォーカリスト