波尾の選択 傑物たちの至言に触れて

名言を超えた至言。生を突き詰める傑物達。至言に触れて触発された想いを綴ります

優しい曲-6 「ジェシー」ジャニス・イアン/JESSE(JANIS IAN)

「ジェシー」ジャニス・イアン/JESSE(JANIS IAN)

1. この曲は

 

1973年、第一回で紹介したロバータ・フラック(Roberta Flack)がカバーしたことで脚光を浴び、
1974年ジャニス・イアン(JANIS IAN)自身の「ジャニスの私小説(STARS)」に再収録した。
 毎回いちいち指摘しないけれど、日本のレコード会社担当者の邦題をつけるセンスの酷さといったら書いていて恥ずかしくなる。
それが嫌で昔から原題で覚える癖がついてしまい、邦題を言われてもそれがどの曲のことなのかわからないことがしばしば。
 若い女の子が自分でギターを持って作詞作曲し歌うから「私小説」ですか。そんなことを言えば総ての創作は「私小説」かもしれないじゃないですか。
「ジェシー」(JESSE)もわざわざ「愛しいジェシー」とか付けられなくてよかった。
 レコード会社がイメージしたであろう線の細い、繊細さだけのフォーク・シンガーなどでは全然なかったのだ、このジャニス・イアン(JANIS IAN)は。私生活がどうしたこうしたはを書く積りはないが、筋金入りの創造者だということだけは言っておく。
 最初からフォーク・シンガーというよりもジャズ・メンとの共演が多かったことは紹介しておこう。
 それでもその後何曲も全米チャート上大ヒット、日本でも大ヒットの曲をたくさん書くのだから、大人たちが才能の本質を理解できなくても会社的には大ハッピーな関係だっただろう。当時は。
 さて、是非オリジナル録音の音源と youtubeのライブ映像を聴き比べて欲しい。

 

2. 音源


Janis Ian - Jesse

 

 

Stars

Stars

  • Janis Ian
  • CD
 

 

 この人の歌声とギターには商業を感じない。あくまでも個人的な切実さと誠実さを感じる。
 申し訳ないがオリジナルで録画されたバックのストリングス・アレンジには商業を感じる。余分で邪魔。
 ものすごく良い映像、演技にくだらない音楽を乗せた映画を見せられた時と同じだ。
「生の素材を活かそう」とか調理の話ではない。
 創造行為とは細部のひとつひとつが積み上げられ作品に結実するのだ。細部までコントロール出来なくては残念なことになる。
 100点の楽曲、歌声とギターを他の楽器、アレンジが減点となってしまう。
 若いアーティストや映画監督に完全なプロデュース権、編集権を与えられることが少ないから生じる悲劇である。
 正直、この録音された「ジェシー(JESSE)」はよく出来た良い曲の範疇内にある。このくらいの良い曲は無数にある。

3. 映像


Janis Ian Jesse (Unplugged)

 youtubeにずっとアップされているがオフィシャルだとも思えない映像。質素な会場で最初は目の前の観客と軽口が交わされるところも収録されている。

4. この曲の優しさ

 この映像を見たときの衝撃。
一瞬の間を取った後、アカペラで歌い出す。
一気に静寂の世界に連れていかれる。
 歌えば歌うほどに静寂が深くなっていく。
やはり余計な楽器の伴奏なしで自分の声とギターだけ。
うぉー、こんなにすごい曲だったのか!!
このライブ映像での演奏のもの凄さは驚愕の一語だ。
「ジェシー(JESSE)」がかくも深く、凄みのある曲だと改めて知らされる演奏。
ジャニス本人に特別な歌い継ぐべき意味がある曲なのだろう。それを詮索する必要もなく、ただただこの静謐な歌が拡げる宇宙の中に入っていたいだけだ。鳥肌、涙、震え。

 ジャニス・イアン(JANIS IAN)には、
1974年のNO.1ヒット「17才の頃(At Seventeen)」、
1976年の「恋は盲目(Love Is Blind)」、
1977年の「ウィル・ユー・ダンスWill You Dance)」等、もっと有名な名曲が多くあるけれども、この魂を揺さぶられるこの演奏こそが最も優しい。

ジャニス・イアン(JANIS IAN)
1951/4/7-現在68歳

5. カバー曲

1973年、第一回で紹介したロバータ・フラックRoberta Flack がカバーしたことで脚光を浴びた。
 カバーは意外に15曲と少ない。簡単なラブ・ソングのようでいてその深さから腰が引けるのか。
ロバータ・フラックRoberta Flackがいい加減に曲を歌う筈がないわけで、その歌声は深く、長い。
やはりロバータ・フラックRoberta Flackだ。しかしJanis本人のオリジナル同様にストリングス・アレンジが邪魔。
 とても好きな歌声を持つジョーン・バエズ(Joan Baez)は素晴らしい歌声は相変わらずだけれど、割にさらっと歌ってしまっていて残念。

(選、記*波尾哲)