波尾の選択 傑物たちの至言に触れて

名言を超えた至言。生を突き詰める傑物達。至言に触れて触発された想いを綴ります

傑物の至言-43 倉本聰

純「電気がなかったら暮らせませんよッ」

五郎「そんなことないですよ」

純「夜になったらどうするの!

五郎「夜になったら、寝るンです」

(『北の国から』での台詞)

日本人は便利であることが豊かさであると捉えています。しかし「豊か」を辞書で引くと「リッチであること」のあとに「且つ幸せであること」と続く。

'70年代の生活スタイルに戻れば、電気使用量は現在の5分の2で済みます。だから、原発は必要ない。ただ、生活は不便になるでしょう。どちらを選びますか」と。1階席は一般の方で、2階席には高校生の団体が入っていたのですが、1階席のほとんどの人が昔に戻るほうに手を上げたのに対して、2階席の高校生たちの7割が原発を選ぶほうに手を上げました。便利な暮らししか知らない若い人達には、ケータイもコンビニもない生活など想像できないのでしょう。

『週刊現代 2012/12/6』より

 

 

今や、ひょっとして日本のテレビドラマ史上の金字塔『北の国から』をご存知ない世代の人たちが多くなってきたかもしれない。

 

 

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1981~2年『北の国から』フジテレビ 主演:田中邦衛、中嶋朋子、吉岡秀隆ほか

連続ドラマとして放送。24話、平均視聴率14.8%は当時としてはさほど瞠目すべき数字ではなかった。

その頃のテレビドラマはNHK、民放ではTBS(ドラマのTBSと言われていた)、そして時に鋭く青春モノ、刑事モノをぶち込んでくる日本テレビという構図だった。

1983~2002年『北の国から』スペシャルが8作制作され、うち3作は2晩に亘って放送されるほどの長尺であり圧倒的で濃密なドラマが驚異的な視聴率を叩き出した。

 

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倉本聰はラジオ局ニッポン放送に入社しながらペンネームで脚本を書き始め、

1963年退社。
ニッポン放送出身(フジテレビの親会社)でありながら日本テレビ、TBSで書きまくった。どれもが見応えがある、何度も見返す価値のあるドラマだ。

1970年『君は海を見たか』日本テレビ 主演:平幹二朗ほか
1971年『2丁目3番地』日本テレビ 主演:石坂浩二、浅丘ルリ子ほか
1972年『赤ひげ』NHK 主演:小林桂樹ほか
1973年『白い影』TBS 主演:田宮二郎ほか

1974年『勝海舟』NHK 主演:渡哲也(→松方弘樹)、大原麗子ほか

    途中降板し、北海道札幌市に転居。
1975~1977年『前略おふくろ様』
日本テレビ 主演:萩原健一、梅宮辰夫ほか
一部抜粋するだけでもクラクラしてくるほどの傑作を書き続け(中に共同脚本家がいる場合もあり)、

1977年 北海道富良野市に移住

2019年 現在も『やすらぎの刻~道』がテレビ朝日で月~金放送中。主演:石坂浩二、浅丘ルリ子ほか

 

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さて冒頭の言葉、単に原発の賛否、というワンテーマの話などではない。

人間が生活するサイズの問題だろうと思う。

1008年『源氏物語』時は平安時代

1564~1616年 ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)=日本では室町~安土桃山時代

1685~1750年 セバスティアン・バッハ(Sebastian Bach)=日本の江戸時代

電気もガスも電話も車も飛行機もコンピュータもコンビニもない時に生き、創作した作品に我々は今でも胸を震わせ、読み、聴くこれら作品以上の作品が現代に幾つ創作されているのだろう、と思う。

 

1970年代ならば電気、ガス、電話、飛行機、自動車、テレビ、ラジオはあった。パソコン,

コンビニも無かったけれど、生活に必要なモノが購入できる店はあった。24時間営業じゃないが。

平安時代に戻ろうと言っているわけじゃない。

1970年代にさえ戻りたくない、というのはその時代を生きたことがないから「イメージできない」「なんか逆戻りするのってかっこ悪い」というくらいのことなのだろうと思う。

企業は存続が目的で新商品を開発し販売する。

誰からも必要とされずに市場から消えた「新」商品の何と多いことか。

街中では営業を終えた店の電光パネルが深夜も点灯されたままだ。

 

テレビの国から

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 私自身、月の半分近くをを田舎で過ごす。

田舎では陽が落ちる頃、国道を一本脇道を入れば真っ暗になる。

逆に、頭上の月がとても近く、場所によっては月灯りだけで周囲が見渡せるくらいにもなる。

 田舎といっても限界集落とまでは行かない場所で、車で五分走ればコンビニはある。スーパーは年中営業店がオーナーチェンジして夏季のみ営業。

本屋はない、レコード屋、ビデオレンタル店はない。夜遅くまで酒を飲ませる店は10キロ圏内に2、3件か。新しく出来ては閉じたりしている。

パン屋も出来ては潰れ現在は一件。

 朝は鳥の鳴き声、キツツキが木を叩く音で目覚め、夜は虫の合唱に囲まれる。

冬は雪かきが必須で、東京に戻る時には「水抜き」という処置をしないとならないことを知った。使わない時間が長いと水道管の中で水が凍り固まってしまうので、不凍液を注入し家中の蛇口をすべて空けておかなくてはならないのだ。

 氷点下まで下がらない場所に暮らす人には縁がない単語だろう。

 

3日間、誰とも話さず、メールのチェックをしなくても、何も起こらない。

世の中、社会の動きと無関係な場所でぽつんと放って置かれる時間。

いろいろな不便が、何故だかとても贅沢な暮らしだという錯覚に陥る。

 

 田舎でネット越しに仕事をするアーティスト、プログラマー、田舎暮らしを選択し畑仕事を始める現役リタイア者は楽な暮らしをしているわけじゃなく、自ら必要なものは自分で調達する術を確保しつつも、都会暮らしよりも遥か不便で厳しい生活環境の中だからこそ豊かな創作を行えるのだと思う。

 

 倉本聰が聞うた2012年から7年経った。

同じ質問をしたら答えに変化はあるのだろうか。

 

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倉本聰

1934/12/31- 現在83

脚本家、演出家